人形?
エッチな官能小説集
改めて重ねた唇は、愛しさの証し。互いの唇を、舌先で撫ぞる。割って入る。受け入れる。舌先が、絡み合う。吐息が互いの鼻先をくすぐる。瑞樹の広い肩が、千佳を包み込む。背中に添えられた、大きな手。脇腹から、胸元に上がってゆく、熱い指先。乳房を下から揉み上げ、指先で味わうように、ゆっくり、ゆっくり、瑞樹の優しい愛撫が、千佳を紅潮させてゆく。
「千佳……」
耳もとに声。太く、低い、声。唇で髪を避け、濡れた舌が、耳奥に入ってくる。千佳の肩が瞬間、持ち上げるように狭まる。気付く。瑞樹の舌が耳奥を離れ、柔らかい耳たぶを滑る。丁寧に、丁寧に、優しく、優しく、千佳の耳を滑る。重ね合うように、ベッドに身を倒す──。
瑞樹の喉仏が、千佳の目に、淫美に映る。男の象徴的なそれが、性器を思わせる。倒れこんだベッドで、千佳は瑞樹の胸元から、首筋に唇を這わす。首の中央で、その硬い骨を頬張る。口中で、舌を転がし、夢中に吸う。脱がされていくのは、着ているものだけでない。愛しさから産まれた性欲が、幼児のような声を上げ、理性を剥いでゆく。
キスを止めることなく、愛撫を交わしながら、互いの着衣を、取る。裸に、なる。裸に、する。それが、互いを求める気持ちの証し。長身の体を折って、瑞樹が千佳の乳房に顔を埋める。乳房というカンバスに色を塗るような、愛撫。優しすぎる、愛撫。舌先が乳首に触れる度、体が小刻みに震える。肌が、桜色に染まっていく──。
千佳の乳房を中心に、瑞樹の唇と舌が、全身へと滑り落ちてくる。時折、耳に届く吸引の音が、耳に、いやらしい。両手の先は、乳首を捕らえたまま、腹部から脇へと舌先が滑る。間もなく、どうしようもない距離に置かれる二人が、今、できること。それは、優しいまでに求め合い、切ないまでに与えあうこと。互いの体に、存在を刻みあうこと。
瑞樹の唇が、千佳の茂みに達する。反射。脚を閉じる、千佳。深く身を下げ、瑞樹が脚を、割る。膝を立てるよう促し、顔を埋める。襞(ヒダ)を緩く噛み、舌先で千佳の愛液を、掬い取る。欲しがる千佳の花弁が、淫らな呼吸を始める。涎のような、糸を引く蜜を流しながら──。
水を舐める犬の様に、瑞樹が荒々しく、卑猥な音を立て、舐めてくる。
「い、いや……」
小声を吐き、千佳は瑞樹の頭に手を置く。一瞬、瑞樹の舌が、離れる。
「千佳、すごい、よ、ビチョビチョになってる」
自分の頭に置かれた千佳の手を取り、瑞樹はそのまま濡れた花弁に導く。
「ほら……」
千佳の指先に、夥しい愛液が触れる。感触。ヌルリとした、動物的な感触。奥から、奥から、湧き上がっては、肉襞を伝って垂れ落ちてゆく。数センチの距離で、瑞樹がそれを凝視しているという羞恥。溢れ落ちるそれを、瑞樹は全て掬い取ろうと唇をあてがう。千佳の脚が、力を失い、迎え入れるように開く。秘部への愛撫。粘質な淫音。総てを受け入れたい。羞恥すら、快感に変えて──。
奥深く差し込まれた舌は、何かを探す触覚のように、肉壁を刺激する。性器を舐めることの意味。排泄を行う部位を舐めることの意味。ただ、性欲に操られて、掻き回すそれとは違う、確かな意味。千佳は、抑えることのできない喘ぎの中、浮き上がる腰を憶える。命ぜられた奴隷の様に、濡れ乱れる秘部を、自ら差し出す。茂みが唾液と愛液に絡み合い、肌に着く。握りあう指と指が、皮膚を通じて熱を渡す。
与える者と受ける者の、熱を渡す。そこに生まれる、新しい愛しさ。深く、強く、柔らかい愛しさ。セックスに快感があるのは、そのことを感じとるためだ。瑞樹が、“上がってくる”。濡れた唇を、千佳に示すように口づけてくる──。
千佳は繋いだ手を手繰り寄せ、二人の結んだ指を舐める。指先、指間、爪。小さい自身の指と、太い瑞樹の指。交互に口に含み、濡らしていく。瑞樹は、穏やかな目でそんな千佳を見つめる。もう一度、首筋に唇をあて、硬い喉仏を含む。今、千佳の下腹部に当たる瑞樹のペニスを思わせる、喉仏の硬さに、男としての逞しさを感じ取る。
初めて瑞樹を見た時、不思議な安心感を抱いた広い肩に、舌先を滑らせる自分に、千佳は恍惚の光りを目の奥に浮かべる。長い腕に、一筋の唾液の跡を作り、瑞樹の腹部に舞い戻る。すでに乳房に当たっていた、突き刺す感触が、輪郭を伴って、目の前に現れる。切り取られたように、先端の口を細く開け、瑞樹の硬いそれが、目の前に、ある──。
全身の血液総てを溜め込んだような張り。根元から先端まで細ることなく、そびえ建つ塔を思わせるペニスは、千佳の愛撫を待ち望んでいる。ゆっくり伸ばした舌先で、裏筋を駆け昇る。長身の瑞樹が、大きく背を反らす。反らされた背によって、ペニスがさらに近く、千佳の唇に当てられる。包み込むように、口に、含む。
「うぅ……んん」
弱々しく、幼な気な瑞樹の呻きが届く。母性本能という、優しさが顔を覗かせ、呻く瑞樹を可愛いと思う。先端だけをきつく吸い、指先で撫で回す。そのまま大きく首を振り、根元から上下に指も動かしてみる。
「千佳ぁ」
力ない声で、呻いてくれる。悪戯心が、千佳の口淫をより激しくする。
「ハァ、ハァ……」
瑞樹の短い呼吸が、愛しい──。
窓の外。遠くに鉄橋を渡る電車の音。透き通る春の風。今を抱き締める。思いを紡ぐ。離れる距離を、折り畳むような、喘ぎと呻き。この瞬間に体を重ね、明日を誓う。見つめあう。開いた瑞樹の目と、閉じた千佳の目で、見つめあう。息を奥歯で噛む。瑞樹の腰が、ぐいと千佳の内股に沈められる。息を飲み込む。千佳の両腕が優しく伸びる。
永遠を誓える者など、どこにもいない。永遠を奪える者も、どこにもいない。じわり、じわり…硬い肉感を伴って、瑞樹の限界にまで膨起したペニスが、割け入ってくる。粘質な水音を零し、千佳の花弁がそれを包み込む。ペニスにまとわりつくような肉壁が、瑞樹の神経を硬直させる。受け入れた千佳の顔に、汗が滲む。二人だけの永遠が、今、始まる──。
千佳の手をほどき、瑞樹が背を伸ばす。両手で千佳の足首を掴み、大きく左右に広げる。曝された花弁が、美しいほどに、ペニスを包み込んでいる。透明から、白濁色へ。千佳の愛液が、その色を変えていく。
一筋の跡を伝って、次々に溢れてくる。大きく腰を前後に揺らし、瑞樹が千佳の子宮を目指す。逞しい躍動が、今、自分の中に、ある。喜びと快感に、千佳は、はしたなく口をひろげ、嗚咽のような喘ぎを吐く。一波。二波。押し寄せては引く、荒い波のよう。瑞樹の突き上げは、角度を変えることなく、泣き濡れる肉壁を揺すり続ける。体中が、熱い。燃えるベッドの中に放り込まれた人形のように、二人は熱に包まれていく。このまま壊れていい…快楽の自虐が、横たわる。
瑞樹の大きな手に、何度も千佳はその身を揺らされる。抱きかかえられ、瑞樹の膝の上で軽々と揺らされたり。背を取られ、四つに這い、瑞樹からの衝撃を何度も肉丘に受けたり。
脚はいつも大きく広げられ、瑞樹の思うままにその向きを変えた。瑞樹の腰の動きに合わせ、波打ち揺れる乳房。そこに落ちてくる汗の粒は、瑞樹の刹那を物語る。
千佳が初めて知る、エクスタシーは、その余韻を許す事無く、新たな瑞樹の動きの前に消え去る。不思議な涙が千佳の頬を伝う。冷たい、涙。鼻をすすることもできず、唾液を飲むこともできず、千佳は、昇りつめては堕ちてゆく。戻れない。もう、彼の居ない時間に戻れない。体で知ってしまった幸せに、人は皆溺れていくのだから──。
一際大きな波が、千佳の下半身を揺らす。薄く開けた目に、落雷に打たれたような瑞樹の表情が映る。奥歯を噛む。胸の奥。肺から発するような、瑞樹の呻き。
「きて……」
声にならない声で、千佳は涙を払う。動物的な瑞樹の動きが、快感を過ぎ、麻痺すら与えてくる。耳元で、泣き落ちる弱々しい声。全ての動きが、止まる。この瞬間を待っていたかのように、全ての静寂が、終わる。窓の向こう。走り去るバイク。自販機の取り出し口。犬の鳴く声。炎がバチバチと燃えかすに揺れる残像。間近に瑞樹の汗を受ける。乱れた呼吸そのままに、軽く、強く、口づける。千佳の横に身を移そうとする瑞樹を、言葉で、停める。
「お願い、このままで…」
精液を吐き出すペニスが、膣奥で何度も頭を振っていた──。
引き戻された現実に、違う涙が溢れる。この街を離れる瑞樹に込める、願い、祈り、想い。今、包まれている、この温かく広い胸に、千佳は夢を見る。大切なものは、決して離れることはない。どこかで聞いた言葉が、千佳の涙を瑞樹に預けてくれる。花束のように。二人は包まれている。深い眠りの中。柔らかく、優しい笑みを浮かべて──。
千佳の髪を撫でたまま、瑞樹は寝息を立てている。千佳が、静かに目を開ける。少し、見上げる視線で、穏やかな寝息に、もう一度身を埋める。汗を含んだシーツが、二人の肌に隙間なく在る。寄り添う二つの花は、優しさと愛しさをもって、短くも深い眠りにつく。花束のように。美しく。花束のように。儚く。
「きっと、連絡する。必ず」
そう瑞樹は言って、新しい日々へと出発した。いつかは分からない。でも、いつか、きっと。そう、自分に言い聞かせて千佳は見送った。軽いキスの後、瑞樹は大きな手で千佳の頬を包んだ。そして、あの日と同じ、千佳よりも大きな笑顔を見せて、背を向けた。新しい、日々へ向かって。
「携帯!」
千佳の声に大きな肩が振り返る。「非通知、直してよ」軽く右手を上げ、瑞樹は、また笑った。丘の上の公園の桜が散り、蒼い芽が眩しい。体に刻まれた幸せは、ただでさえ長い夜を、もっと深くする。“いつか、きっと”千佳の想いが、揺れるカーテンの隙を抜け、風に乗る。ベッドに置いた携帯が、今夜も鳴る。
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