人形?/迎夢のエッチな官能小説
人形?
エッチな官能小説集

体が熱い

まるで
炎に包まれた
セルロイド人形
今にも
溶けてしまいそう

意識を遠ざけ
理性を奪う
そんな
濃密な時間を
くれる
あなたが
愛しい

誰よりも


電話の向こうの息遣い。矢継ぎ早に淫語。何度も名を呼ぶ、単調な呻きに、千佳は赤のボタンを押す。HLD。携帯を折り、ベッドへ放り投げる。吐き捨てるような短い溜め息をつき、鏡台の椅子に座る。

“シンジ”と名乗るその男は、1週間ほど前、アダルト系サイトの掲示板で知り合った。30才。独身。180センチ。アルバイト。確かめることなどできないプロフィールが、“彼”と同じだった。ただ、それだけでシンジにメールを送った。ありきたりな、やりとりでも、千佳の心は少しばかり満たされた。テレフォンセックス。初めてではなかったし、“彼”の影を重ねることで、燻る性欲を吐き出すこともできた。ただ、千佳にはそれだけでよかったのに──。

シンジに誘われた時、千佳は通話料のことを考え、自身の番号を送信した。それが誤りだった。翌日も、その次の夜も、メールを返さない千佳に痺れを切らし、電話してきた。シンジからのメールは、アドレスを拒否設定することで防ぐことにした。ただ、非通知でかけてくるシンジからの着信を、千佳は拒否できないでいた。

“彼”もまた、非通知、だったから。非通知拒否を設定してしまうと、“彼”からの電話も受けることができない。約束も、予定も、ない。でも、待っていたい。いつでも。そんなジレンマに苛立ちながら、シンジが諦めてくれるのを願った。鏡に映る自分の顔を見、千佳は力ない自分の目に気付く。「会いたい……」呟きが漏れる。濡れた髪が、千佳の肩に冷たかった──。

パソコンが故障したのは、2月の雨の日曜の午後。千佳は自身のホームページを作り、友人やネットで知り合った仲間と繋がるのを楽しみにしていた。日記。観葉植物や部屋の写真。ロックバンドの話題。詩。掲示板。チャット。他愛もない話題に、優しい言葉と見えない笑顔が溢れていた。

毎週日曜日、更新。それが千佳の楽しみであり、また来訪者も心得ていた。日曜の夜は決まって、千佳のホームページに馴染みの来訪者が集ってきた。相次ぐフリーズに、何度も再起動を繰り返し、諦めた。夜まで、まだ時間はある。千佳は意を決して家を出る。近くに、ネットカフェが年末にオープンしたのを思い出したから。自転車に、傘。雨脚が、強くなってきていた──。

郊外店らしい大きな構え。千佳は雨に濡れた体の一通りを小さなタオルで拭くと、店内へと向かう。高い天井。木目調の内装の匂いが、新しかった。カウンターで受付けを済ませる。

「Macの席をお願いします」
千佳の言葉に店員の顔が曇る。

「あいにくご使用中でして……」
軽く息を飲み千佳は落胆を隠せない。

「いつ頃まで使われますか?」
店員は手許の伝票に目を落とし、
「3時間コースで、つい先程ぉ」
と頭を垂れた。
「Windowsも同じですよ、大丈夫。操作はご説明しますから」

カウンターの奥から千佳にそう言いながら、長身の男が現れる。男は手早く使用に際しての説明を行うと、千佳をオープンスペースの中央に案内する。後ろに続く千佳。男の広い肩に不思議な安心感を憶えた──。

「ネットですか?」

隣の顔が見えない様に、机の左右にはつい立てが張り出している。必然、男は千佳の左後ろに、長身の体を窮屈そうに屈める。URLを打ち込み、千佳は自身のホームページへ繋ぐ。

男に覗かれるのがかなり照れ臭く、戸惑いを隠せなかった。変換や、コピー→ペースト、フォントの設定、男は要所要所を優しく教え、「何かあったら呼んで下さいね」と言い残し持ち場へと戻る。

ドリンクバーへ飲み物を取りに行く時、トイレに向かう時、カウンターの前を通り過ぎる度に、千佳は男の顔を無意識に見つめていた。目と目が、合う。必然の偶然。男が軽く目を見開き、首を小さくかしげる。

“順調?”そんな聞こえない声が、千佳の耳に届く。口元が自然と笑みを浮かべ“なんとか”と返す。千佳の笑みに“それはよかった”と男が満足気な笑みで答えてくれる。

無事、更新を終え、ネットカフェを後にする。雨が上がり、早い雲が西から東に流れていく。白い月明かりの中。どことなく嬉しい気持ち。なんとなく軽やかな心持ち。それが、あの男によるものだと、千佳自身気付いていたし、そう思う自分が、また、愛しかった。

普段なら、チャットや掲示板で、馴染みの来訪者達と他愛もない繋がりを楽しむ、日曜の夜。パソコンの故障で、それが出来ない夜を、千佳は長く感じていた。

自宅に戻ると、まっ先にシャワーを済ませ、雑誌を片手にベッドに身を投げる。ブラジャーを着けていない胸に、パジャマの擦れが、くすぐったい刺激を送る。乳首が硬く突起しているのは、寒さのせいでは、ない。雑誌を持つ手に、マウスを操る男の大きな手が重なって見える──。

広い肩。短く切られた髪。涼し気な頬から顎のライン。全てを包んでしまいそうな大きな手。雑誌を枕脇に置く。灯りを部屋隅に置いたルームライトに変える。自身の影が大きく壁に伸びる。ベッドに身を沈めると、耳元に柔らかな吐息を感じる。

彼からの、吐息。ボタンを一つずつ外し、胸元を開く。ツンと尖った乳首が、冷たい指先に、震える。この指が彼のものだったら……淡い幻影に千佳の体が熱くなってゆく。乳房を撫でながら、指先で乳首を転がす。微かな母音が喉を突く。ショーツの上から秘部全体を、触る。こもった熱が、指先の動きを滑らかにしてゆく。遮るものはないのに、故意に、自身に焦らしを与える。

“欲しい…”体から沸き上がる欲求を、すぐには、満たさないように──。


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