沈黙?/迎夢のエッチな官能小説
沈黙
エッチな官能小説集

洗ったばかりのシーツが風をはらんでふわりと広がる。
その隙間から差した太陽の光に、ジェイドは眩しそうに目を細めた。

天然の栗色の髪が風にそよぐ。
長いまつ毛に形良い鼻、きりっとした輪郭の口元。
誰もが一度見たら忘れないだろうという位の美貌の彼は、晴れ渡った空を見上げた。

良い風が吹いている。
一息ついて、ジェイドは今終わったばかりの洗濯を満足気に眺めると、院の中へと戻って行った。
彼は、何人もの仲間と共にとある孤児院で生活していた。

そう、彼はみなし子だったから。
与えられた仕事が片付いて、
ジェイドはいつものように院の一番奥の白いドアノブに手をかけ、中へ入る。

そこは薄暗く、狭い部屋だった。
目の前に小さな、古いベッドがあるだけの殺風景な部屋……。

「瑞穂、起きてる?」
彼の声に反応して、ベッドの布団がモコモコ動いて小さな頭がピョコっと飛びだし、
途端に大きく咳き込んだ。

「大丈夫かい? 瑞穂」
慌ててジェイドはその背中をさすってやる。

「ありがと……平気」
弱々しく答えて、瑞穂と呼ばれた少女は彼を見て目を細めて笑った。

瑞穂は病気だった。
貧しい孤児院なので、病院に行くこともできないので病名はわからなかったが、
それが瑞穂の命を食い荒らしているのは誰が見ても明らかであった。

元々体が丈夫ではなかった瑞穂は、2年前風邪をこじらせ寝込んだきり、ベッドから動けなくなった。
去年の冬は発作と高熱で死にそうになったが奇跡的に持ち直した。
ジェイドが必死で看病した賜である。

以来、ジェイドは瑞穂につきっきりで生活していた。
彼にとって瑞穂は守ってやるべき存在であり、誰よりも愛する人であったから。

「どこか……辛くないか?」
優しく瑞穂の長い黒髪をなでてやり、ジェイドは問う。

「うん。今日は少し気分がいいくらいだよ」
ニコッと無邪気に笑って瑞穂は答える。
前にも増して白く、細い体を見てジェイドはぎり、と唇を噛みしめた。
病院にさえ行けば……瑞穂は治るかもしれないのに。

そんな思いが頭をよぎる。
しかし、無理なのはわかっていた。みんなを食べさせるのが精一杯のここでは……。

(お金が……お金があれば)

ある日、孤児院の裏手にある小高い丘の上でジェイドはボーッと考えていた。
勿論お金のことである。

どうやったら稼げるのか……。
視線をさまよわせていた彼の目がふと止まった。
ここから遠くない小さな山に白く輝くいくつもの石。

墓だった。
何十、何百もの人が生きていたという記録達……。
ひっそりと建つそれらをジェイドは見つめた。
瑞穂の顔が浮かぶ。
このまま行けば、彼女があそこへ眠る日も近いのかもしれない。
そう考えただけで、血の気がさっと引くようだった。

嫌だ……俺は瑞穂を失いたくない……。

数日後……。
この街で一番のホストクラブ『クラウン』の面接が行われた。

「次! 来い」
社長が面接に来た青年を呼ぶ。
入ってきた彼を見て、社長は目を丸くした。

「名前は?」
「ジェイド・真壁です」
美形、である。ハーフっぽい、綺麗な顔立ちがひときわ際だっていた。
女なら、誰しもが抱かれたいと思うのではないか?
コイツは使いようによってはかなり稼げる!
社長はほくそ笑んだ。

「お前、何のためにここに来た?」
「お金がいるからです……」
静かだが、ハッキリした声でジェイドは答えた。

「ホストってのはな、女を騙して貢がせ、金を取る代わりに女に夢を見せてやる所だ。……それがお前にできるか?」
「できます」
答える彼の顔は冷静で、静かな決意が読みとれた。
(金の為に自分を捨てる……か)
社長は ふっ……と、息をつき、
「明日から来い」とだけ言ってジェイドを下がらせた。

こうして、彼はホストとして働く事になった。
意外に仕事は上手くいった。
毎日新聞や雑誌に目を通し話題作りに活用したり、
先輩ホストの仕事ぶりを観察して接客にあたった。

甘いマスクに豊富な話題。
彼の人気は上がっていった。

「ねぇ、シン……」
(シンはジェイドの源氏名)
甘えた声でブランデーを作るジェイドに寄りかかるのは、常連客の晴菜だ。

「今夜仕事が明けたら、私の部屋で一緒に飲まない?」
「あはは。晴菜はいつもそれだよね」
ジェイドが微笑んで答え、グラスを渡す。その笑顔をウットリと見つめながら、
晴菜は「だって、もっと一緒にいたいもん」と、すねたように言った。

躰をすり寄せる。
そうすると、水色のキャミソールの胸元からこぼれんばかりの二つの丘がモロに目に入る。
ジェイドは慌てて視線を逸らした。

「あはっ。 結構ウブなんだね」
視線を逸らした彼の、たじろぐような表情を見て、晴菜はからかうように笑った。
手入れされた白い歯が口元からのぞく。

「……ね? 飲もう?」
魅惑的な笑顔。誘う唇は己の烈情を現すように乾くことはなく。
とびっきりのその笑顔に、彼は迷った。

晴菜はかなりの上客だ。
ジェイドのバイト料の半分は彼女がいるから成り立っているであろう。
瑞穂の事を思うと、晴菜を失うわけにはいかなかった。
これほどの女はもう現れないかもしれない。
若い彼はそう思い込んでしまったのだ。

「わかったよ」
苦笑してジェイドが承諾すると、晴菜はぱっと顔を輝かせた。

「やったぁ! ジェイド大好き!」
手放しに喜ぶ彼女をみると、悪い気はしなかったが、胸のあたりに何かモヤモヤするものがあった。
それが何なのか、彼が知るのは後日である。

「じゃあ、終わったら私の携帯にかけてねっ!」
指切りげんまんをすると、機嫌良く晴菜はクラブを後にした。
やっと待ち焦がれていたものが手に入る喜びに、彼女は心踊らせて準備を始めた。

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